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宮沢賢治学会・会報第36号 | |
小十郎はなぜかもう胸がいっぱいになってもう一 ぺん向ふの谷の白い雪のやうな花と余念なく月光 をあびて立ってゐる母子の熊をちらっと見てそれ から音をたてないやうにこっそりこっそり戻りは じめた。風があっちへ行くな行くなと思ひながら そろそろと小十郎は後退りした。くろもじの木の 匂が月のあかりといっしょにすうっとさした。 (「なめとこ山の熊」) 表紙写真 岩手日報購読者メディアセンター |
第36号●熊 2008年3月31日発行
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光・風・水 畑中 純 そらの散乱反射のなかに 賢治さんの四行詩「岩手山」の視点の自在さ、造形の確かさはどうだろう。風の目になって吹き抜けていく壮快感があり、 同時に仏の慈悲に包みこまれてどっしりと坐った存在感もある。ただ、今回接した岩手山は、くたびれ果てて病院のベッドに横たわる自分の姿にも思えた。 どうも変だった。十年程前から一年に一、二度、ひどい倦怠感、酸欠で体が動かなくなっていた。知人の追悼会に急ぐ坂道で、真夏日に息せき切って掛けつけた上野の博物館で、調子に乗って二時間半も講演でしゃべった後で、本を買いすぎてから立ち寄った逓信博物館で、薪を担いで河原に降りていた奥多摩の遊歩道で… うっ、おかしい、水くれ、風くれ、ちょっと寝かせてくれ、と、なっていた。過労からきているのだろう、熱中症だろう、と勝手に決めていた。以前、左肘にヒビが入っていたらしい時も、三日間うなって一ヵ月不自由したが自然治癒にまかせたことがある。骨折したことがないから痛さの度合が分からなかった…では済まされないことだけどね。ある日、だるいだけではなく、心臓がギュンと痛んでキャンと泣いた。ご近所の先生の見立て通り、冠動脈の一本が詰まっていて、金属を入れて広げる手術をしたのだった。
貰った命、といえば五八歳の若僧が、その程度の手術で何を大ゲサなと笑われるかも知れない。が、私にとっては、この入院が生活の変調に抗っていた気分に一ツの結論を出した。あるがままの自分を受け入れて、ゆっくり、じっくりのサイクルに移行し、納得することだ。長年マンガを描き続ける生活に身も心も動脈硬化を起こしていた。新たな光と風と水を求めていたのだろうし、同時に抱え込みすぎた欲望を出来るだけふるい落として身軽になる必要を感じた。全部は捨てない。欲望こそが生命力だから。 幾つかの継続中の作品、家族と友人と猫たちとの変わらぬ付き合い、故郷とマンガ界へささやかなお礼、など、捨てられない重要課題を指折る中に私のマンガの師表として娯楽として今日まで興味対象であり続けた人物の版画作品化が大きく立ちあがってきている。その代表格が宮沢賢治さんだ。自分の足跡に熱を入れるのは、老いに突入した証拠かもしれないが、今、体感しなければいけない場所は、一に生まれ育った町内、次にイーハトーブだと、これもまた病院のベッドで決めた。 そうだ、風の又三郎に会いに行こう。二〇〇八年の東京でも会えなくないけど、ここはやっぱりイーハトーブだ。それも二五年前に子供達を連れて歩いた所を追経験するのがいい。花巻のイギリス海岸、羅須地人協会、賢治記念館の周辺、花巻温泉、それから小岩井農場。岩手山を眺める場所は小岩井農場がいいだろう。 わたくしはずゐぶんすばやく汽車からおりた 過去二回小岩井駅に降り立ったが、一度は慌てていて、もう一度は忘れていて雲はひからなかった。今度ぎらっとひかるのは風の又三郎だと思う。悩みや悪徳や、醜いものを凝視しすぎて濁った心も、まだあるかもしれない身体の故障も、一向に光明の見えない不景気の暗雲も”どっどど どどうど どどうどどどう“と全部吹き飛ばしてくれ。そして、ちょっとでいいから”すきとほつたほんたうのたべもの“をくれ。このごろインチキな食べ物も多いし、私はカロリー制限していますから。 注文が多すぎて又三郎さんに嫌われますか?
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| 【報告】 |
第十八回定期大会 二〇〇七年度定期大会が会員他一五〇名の参加を得て、昨年九月二十二日と二十三日の二日間にわたって、花巻市のNAHANプラザ、宮沢賢治イーハトーブ館を会場に開催されました。大会の様子をご報告いたします。 第17回宮沢賢治賞・イーハトーブ賞贈呈式
今年も例年どおり九月二十二日に、午前十時から花巻市主催による第十七回宮沢賢治賞・イーハトーブ賞贈呈式がNAHANプラザにて開催されました。土曜日という日程にも恵まれ、全国から多くの方がお祝いにかけつけ会場は満席となりました。 今回の宮沢賢治賞は、社会科学的な視座により地道な調査に基づく考察と研究を行い継続的な研鑽が結実した功績から、著書『私の賢治散歩』上下巻に対して菊池忠二さんに贈られました。 また宮沢賢治賞奨励賞としては、地質学の専門的知見を生かし、従来と現時点の用語・概念を対比して賢治作品を読み解き、新たに位置づけた著書『宮澤賢治の地的世界』に対して加藤碵一さんと、『係争中の主体』『修辞的モダニズム』の二冊中の賢治論において、賢治テクストの核心にパラドックス性をみる観点から生成を辿り、賢治テクストの様式論の方法を修辞の統合性に置き、新たな境地を示した貢献に対して中村三春さんへ、それぞれ贈られました。 なお、今回はイーハトーブ賞の該当はありませんでしたが、イーハトーブ賞奨励賞として宮沢賢治の精神に共鳴しネパールに小学校を創設し、賢治の精神と作品を普及し児童教育に献身的に努力してきた功績に対してナンダ・プラサド・ウプレティさん、絶滅に瀕したかじか蛙保存運動に長年取組み、地域交流ならびにエコロジー教育に努力し、賢治精神発信の実践に対して御舩道子さんのお二人が受賞されました。 大石満雄花巻市長から賞が贈られ、各受賞者からのスピーチ、その後、本賞受賞者の菊池忠二さんによる受賞記念講演、最後は、元学会理事の宮城一男さんの御息女、弘美さんによる「スライド読本「イギリス海岸」」の上映が行われ閉幕となりました。 なお、宮沢賢治賞受賞の菊池忠二さんによる記念講演の内容につきましては、本号に掲載しているとともに、受賞者の皆さんの横顔につきましては、会報三十五号にて紹介しておりますのでご参照ください。 定期総会午後一時半より定期総会が行われました。出席会員の中から花巻市の押切郁さんを議長に選出した後、議事に入り二〇〇六年度事業報告及び収支決算が原案どおり承認、続いての二〇〇七年度事業計画及び収支予算についても原案どおり可決されました。 議案の最後の役員改選については理事会より提案された改選案について審議され、訂正を加えることで可決されました。この議事で可決された規程が、次回の理事選出に適用されます。 賢治研究リレー講演恒例のリレー講演は、持ち時間一人十五分という中で、宮沢賢治賞奨励賞・イーハトーブ賞奨励賞の方々からそれぞれの賢治をテーマに内容の濃いお話をしていただきました。講演の要旨は本号に掲載しております。 イーハトーブ・サロン−私と賢治−
参加者が気軽に所感を述べ合う本コーナーでは、参加会員の中から十名の方々が登壇され、一人五分ずつのスピーチをいただきました。今年は記念品として『賢治のイーハトーブ花巻―ゆかりの地ガイドブック―』(イーハトーブ館猫の事務所)が贈呈されました。登壇いただいたのは次の方々です。 岡部和保さん(神奈川)、平野利幸さん(岩手)、キティズ・ギミラさん(ネパール)、高橋進さん(岩手)、吉浦伸二さん(東京)、藤原道子さん(東京)、浅沼利一郎さん(大迫)、大口栄一さん(石川)、佐藤成さん(宮城)、鈴木努さん(宮城)。 会員交流・懇親会
恒例の会員交流・懇親会は、はじめに天沢代表理事、そして及川花巻市教育長の挨拶があり、森副代表理事の乾杯の音頭の後、歓談に移りました。 今回のイーハトーブ料理メニューは、「ポランの広場の秋まつり」をテーマに、「水」「山羊の乳」「ハム」「パン」などといった童話中に登場する多くの食材から作られた料理が並べられました。毎年恒例となった中野由貴さんによる「メニュー解説」や、宮沢賢治賞・イーハトーブ賞受賞の各皆様をはじめ遠方から来られた会員の皆様のお話と続き、楽しいときは瞬く間に過ぎていきました。 研究発表二日目は、会場をイーハトーブ館に移しての研究発表です。今回も応募者多数により、一階ホールと二階講義室の二会場開催となり、午前九時半から一人三十分の持ち時間で十人の発表がありました。研究発表者と発表題目は次のとおりです。 A会場(イーハトーブ館ホール)
B会場(イーハトーブ館講義室)
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投稿エッセイ |
賢治のことば散策
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