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イーハトーブ館企画展示13 |
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1999年7月1日〜12月27日
賢治は、学生時代に農業のことだけでなく、物理・化学・地質・岩石鉱物・気象など、科学も学び、卒業してからも天文学や物理学や化学の難しい本を読んでいます。 賢治作品に出てくる科学(とくに化学)的表現を、実験(実見)を通して体験し、改めて作品に接すれば、一段と味わいが深くなるのではないでしょうか。 『実験室小景』ソックスレット 光る加里球 並んでかかる リービッヒ管 みんなはどこへ行ったのだろう 暖炉が燃えて 黄いろな時計はつまずきながら うごいている (〔ソックスレット〕) 学生時代に実験をしたり、研究生時代に分析をやったなつかしい実験室の風景である。 <わたくしの精神がいま索ねているのはノ水に落ちた木の陰影の濃度を測定する青い試薬(略)>とも書いている。 『化学ノ骨組ミ』農学絞や羅須地人協会で、これからは農業をやるにも化学の基礎的な知識を持つことが大切と、賢治は強調している。 『加里のほのほ』ルビーよりも赤くすきとおりリチウムよりもうつくしく酔ったようになってその火は燃えているのでした。 (『銀河鉄道の夜』) 「炎色反応」で、元素の種類がわかる――アルカリ金属のリチウムは赤、ナトリウムは黄、カリウムはほの白い紫などの色を示す。リチウムの炎色反応などは一度見たら忘れられないはど印象的である。 あおあおと悩める室にただひとり加里のほのほ白み燃えたる。 カリウム(加里)の炎色反応には、ナトリウムの黄色がまじりやすい、そこでコバルトガラス(青がらす)を通して見る。ついでに室内を眺めると、いかにもさびしく、悩んでいるようにも見える。 きしやは銀河系の玲瀧レンズ巨きな水素のりんごのなかをかけている ([青森挽歌]) 19世紀後半に、「スペクトル」の分析から、宇宙で最も多い元素は水素であることが知られた。銀河系はまさに「水素のりんご」なのである。 『鉱物たち』別れたる鉱物たちのなげくらめはこねの山のうすれ日にして 賢治にとって鉱物たちは、みんなこころを持ち、なげいたり、おどろいたりする。 作品には、天空や海面などの表現に、トルコ石(ターコイス)、孔雀石、藍銅鉱(アズライト)など、さまざまな鉱石が出てくる。 鉱物を覿察するのに、よく「偏光」が利用される。空からの光や、水たまりの反射光も偏光である。 すべて水いろの哀愁を焚き ([小岩井農場]) 『酸性土壌』およそ二百三十五年のあいだに ([溶岩流]) スギゴケは、酸性土壌に生える。溶岩は、風化にさらされてもなお、酸性を保っていたという「答え」である。 日本に多い酸性土壌を中和するには、「石灰石」が有効なので、賢治は病をおかしてまで、石灰のセールスに献身した。 『膠質化学』目に見えないほどの細かい粒子が浮かぶ「コロイド」。しかし、賢治にとっては、「天の川」も天体が浮かぶコロイドになってしまう(『銀河銃道の夜』)。 いいかおまえはおれの弟子なのだ ([告別]) このすばらしい表現は、空のコロイド粒子による光の散乱――ティンダル現象(効果)。このほか、コロイドの現象として、ブラウン運動、リーゼガングの環、ケミカル・ガーデン(硅化花園)などがあり、作品のあちこちに見られる。 『酸化還元』けむりかかれば はんのきの (『冬のスケッチ』八) 赤い鋼は酸化すると黒い酸化鋼になり、還元するともとの鋼にもどる。バーナーの炎の中で、赤←→黒の変化を見ることができる。賢治は、光の具合いで「はんのき」の梢の色が変化するのを「酸化還元」として表現している。 作品一三三でも、島の木本が、<風のながれとねむりによって/みんないっしょに酸化されまた還元される>と書いている。いかにも試験管をとび出した賢治らしい。 『炭酸同化(光合成)』草はみんな葉緑素を恢復し ([真空溶媒]) 植物は、日中、二酸化炭素と水と太陽の光でグルコース(葡萄糖)などの糖類をつくり、酸素を出す: 6CO2+6H2O→6C6H12O6+6O2 このとき、葉緑素(クロロフィル)が大きな働きをする。 作品三○四では、 落葉松の方陣は せいせい水を吸いあげて ピネンも噴きリモネンも吐き酸素もふく ピネンやリモネンは、代表的な「テルペン類」で、針葉樹やかんさつ類などに含まれる。テルペンは、エステルとともに多くの花のにおいにも含まれる香りの成分。 『物理化学』・『科学書』物理化学(理論化学)は、19世紀終り近くに確立した化学の分野である。賢治作品に出てくるアレニウスやファント・ホッフなどもこの分野で大きな頁献があった(二人ともノーベル化学賞受賞)。 賢治が読んだ『化学本論』は、日本で最初の本格的な物理化学の教科書であったといってよい。 物理化学の基礎は、もちろん物理学である。賢治がいつも机上に置いていたという『物理学汎論 上・下』と『化学本論』は、当然重複するところがある。とくに、当時は原子の構造がわかりかけて来たところで、両書ともこの分野での最新の知識を載せている。 巻積雲のはらわたまで 月のあかりはしみわたり それはあやしい蛍光板になって ([青森挽歌]) 月の光と雲の反射を、賢治は「真空放電」の実験に見たてているが、この実験から電子の存在が知られ、やがてX線、放射能、そして原子核の発見へと発展して行く。 (分子・原子・電子) からだは骨や血や肉や それらは結局さまざまな分子で 幾十種かの原子の結合 原子は紙局真空の一体 外界もまたしかり ([一九二九年二月]) 「真空」からすべてが生じたというのは、実は物理学(天文学)の分野でも、ごく最近の理論である。 しかも賢治は、真空を「異次元」、「異空間」に結びつけて考えている。また、<ともにそこにあるのは一(ひとつ)の法則(因嫁)のみその本源の法の名を妙法達華経と名づくといえり>といっているのである。 もしおまえがほんとうに勉強して実験でちゃんとほんとうの考えとうその考えとを分けてしまえばその実験の方法さえきれればもう信仰も化学と同じようになる。 (『銀河鉄道の花』初期形二)
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