3年前にできた仙台文学館は、街なかの森林公園にあります。21世紀の幕あけとなった
2001年10月27日、ここを会場に宮沢賢治学会の地方セミナーが開かれました。
仙台は賢治にとって、ちょっと都会的で文化の香りを感じさせる街でした。幾度となく
足を運び、東北帝大付近の古本屋や丸善、レコード店などを歩いています。作品にはセン
ダード市の名前もみられるほどです。
宮沢賢治に関心を寄せる人は、仙台にも大勢います。学都ですから研究者も多いし、花
巻へは日帰りで行ける距離なので、大人も子供もそれぞれのやり方で賢治作品に親しんで
います。地方セミナーを仙台で、ということでどういう風の吹き回しか、突然私にとりま
とめの役が回ってきました。「みやぎ親子読書をすすめる会」と「宮沢賢治を読む会」の
方に声をかけ、実行委員会の形をとって、月一回の集まりで準備を重ねてきました。
開会あいさつで佐藤通雅さんは、賢治が仙台に定住したいという意志を持っていたので
は、と言及。代表理事の萩原昌好さんはゆかりの地センダードでの開催に期待をこめ、世
界中がイーハトーブであれ、と話されました。
午前の部は会の代表を務める佐藤成さんの「賢治と宮城」と題したおはなしと写真家・
佐々木隆二さんのスライド「風の又三郎」の上映。佐藤さんは盛岡高等農林に学び、岩手
の教壇に立ちながら賢治を研究。賢治記念館に勤務後、仙台に居を移してからは宮城との
関わりについて調べています。チラシや資料づくりに大活躍の佐々木さんは「賢治が歩い
たみやぎ」の写真もロビーに展示し、好評でした。
中地文さん司会による午後の部は、宮城大学教授で宇宙物理学者の佐治春夫さんの講演
でスタート。「銀河体験」と題し、ご自身が賢治をどのように理解したかという立場から
のお話でした。ウィーンにいたとき「銀河鉄道の夜」をドイツ語に訳して講義していたと
のこと。また仙台出身の小学校の担任から「風の又三郎」に学び、八十を過ぎたその先生
と再開した折「君は風の又三郎だね」と言われたというエピソードも含めて楽しくお話く
ださいました。後半の菅原千恵さん(富山市在住)は宮城学院女子大学に学んでいた頃か
ら賢治研究に取り組み、数年前に出した「宮沢賢治の青春」で保坂嘉内との友情と訣別を
描いて注目を集めた方です。今回は賢治の妹トシに焦点をあて、近代女性問題にもふれて
のご講演でした。
今回のセミナーのテーマを私たち賢治・センダードの会では「未来へのまなざし」と決
めていました。世界に賢治精神が広がってほしいという願いをこめて。そこで「注文の多
い料理店」の序文を外国の方々に訳していただきました。中国語、韓国語、英語、ドイツ
語、エスペラント語で、留学生の方々が一生懸命に翻訳し、真剣な眼差しで朗読する様子
に会場からは盛大な拍手が送られました。
夕方まで中味の濃い一日でしたが、もうひとつ特筆すべきは、陸羽一三二号のおにぎりが
昼食会に付いたということでしょう。仙台市沖野で農業を営む菅田重利さん提供の新米で
参加者220名は、その味をかみしめつつお昼をいただいたのです。秋晴れのセンダード
の森に「雲からも風からも/透明なエネルギーが/そのこどもにそゝぎくだれ…」という
賢治さんの声が確かに聞こえた、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。