カテゴリー
イーハトーブ館企画展示

企画展「宮沢賢治とオノマトペ」を開催します

8月7日(土)~11月17日(水)の期間、宮沢賢治イーハトーブ館において、企画展「宮沢賢治とオノマトペ」を開催します。同題の夏季セミナーにおける4名の講師の講演内容を掲示するとともに、オノマトペが特徴的な賢治の絵本も展示いたします。

展示期間: 2021年8月7日(土)~11月17日(水)
時間: 8:30~17:00(最終日は16時までの予定)
会場: 宮沢賢治イーハトーブ館1階展示室

賢治の多彩なオノマトペ

 「オノマトペ(onomatopée)」とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、「擬音語と擬態語をまとめた言い方」(小野正弘主幹『現代新国語辞典』(三省堂))のことです。
 擬音語とは、実際に出ている音を言葉で表現するもので、「犬がワンワン吠える」の「ワンワン」がそれにあたります。
 これに対して擬態語は、音はしていない状態や感情について表現するもので、「ニコニコ笑う」「しーんと静まる」などがそうです。

 宮沢賢治は、その作品にオノマトペを多用したことで知られています。たとえば、童話「雪渡り」には、「キックキックトントン」というオノマトペが出てきます。子狐の紺三郎と、四郎とかん子という人間の子どもが出会い、堅く凍った雪の上で嬉しさのあまり踊り出す場面で使われていて、その後も繰り返し、みんながこれを歌うのです。かわいい響きによって、雪のきしみと軽やかに弾む足が目に浮かぶような効果を上げています。
 そのほか、賢治は「風の又三郎」の「どっどど どどうど どどうと どどう」、「やまなし」の「かぷかぷ」、「どんぐりと山猫」の「山がうるうるもりあがっている」など、これまで誰も使ったこともないような、たくさんの印象的なオノマトペを用いています。

 オノマトペは、賢治の作品世界をとても豊かにしているのです。

企画展「宮沢賢治とオノマトペ」について

 今回、宮沢賢治学会イーハトーブセンターは、2021年8月7日に、夏季セミナー「宮沢賢治とオノマトペ」を開催しましたが、同日から11月17日にかけて、企画展示「宮沢賢治とオノマトペ」も行っています。
 企画展示の内容は、8月7日のセミナーにおける講師4人のお話の紹介と、オノマトペが特徴的な宮沢賢治の様々な絵本の展示から、構成されています。

 詳しい内容は、以下の通りです。

小野正弘氏(明治大学教授)の講演:「ゆれる賢治オノマトペ「ちゃんと」「ぢっと/じっと」―」

 小野さんの講演では、賢治作品のオノマトペに見られる「ゆれ」について、詳しく解説されます。
 たとえば「ちゃんと」の場合、「ちゃんとやってきた」の「ちゃんと」は、「間違いなく」の意味(一般の情態副詞)ですが、「ちゃんと腰掛ける」の「ちゃんと」は、岩手の方言で「かしこまって・落ち着いて」の意味で使われています(方言的オノマトペ)。これは、「意味のゆれ」と言えます。
 その一方、賢治の童話では「ぢっと」と「じっと」が共存するなど、「表記のゆれ」も存在しています。
 このような「ゆれ」の様子からも、賢治のオノマトペの変幻自在さを垣間見ることができます。

竹田晃子氏(フェリス女学院大学/岩手大学非常勤講師)の講演:「宮沢賢治作品と同時期方言資料の比較―オノマトペを中心に―」

 賢治の作品では、オノマトペが頻繁かつ効果的に使用されているのですが、とりわけ方言的な要素を含んだオノマトペが、多く見られます。この竹田さんの講演では、賢治が生きた時代の方言資料を克明に参照しながら、賢治の作品中の方言オノマトペが分析されます。
 たとえば、当時の岩手方言では、オノマトペを使って自動詞を作る接尾辞「~メク」と、他動詞を作る接尾辞「~メカス」が多用されていたのですが、賢治作品において、この「メク類」と「メカス類」の接尾辞が、がどのように用いられているかという調査の結果が、紹介されます。

川崎めぐみ氏(名古屋学院大学商学部准教授)の講演:「『聴耳草子』と賢治のオノマトペ表現の比較―」

 賢治と交流があった、佐々木喜善という岩手の作家・民俗学者がいます。喜善は、柳田国男『遠野物語』の語り部として知られ、「日本のグリム」とも言われるほどの昔話の採集者でもありました。彼の著書『聴耳草子』は、1931(昭和6)年に刊行されたもので、青森・岩手・秋田・宮城各県の昔話を採録しています。
 この川崎さんの講演では、佐々木喜善の『聴耳草子』に見られるオノマトペを紹介しつつ、賢治作品のオノマトペとの比較が行われます。架空の世界を形作る舞台装置として、賢治はイメージ喚起力のあるオノマトペを多用したのではないか、という興味深い指摘もなされています。

栗原敦氏(実践女子大学名誉教授)の講演:「宮沢賢治と中原中也―オノマトペをめぐって―」

 詩人の中原中也は、賢治より11歳年下で、1907(明治40)年生まれです。賢治が中也に言及した痕跡はみつかりませんが、中也は賢治の『春と修羅』を愛読していて、「宮沢賢治の詩」という評論(昭和10年6月)を発表するなど、賢治の影響を受けていました。
 この栗原さんの講演では、賢治と中也の詩に表現されたオノマトペが、比較されます。賢治は、童話だけでなく詩にもオノマトペを多用した一方、中也は賢治ほど多用していないものの、効果的にオノマトペを使用していることが、豊富な実例とともに興味深く紹介されます。

絵本展示

 「雪渡り」「やまなし」「注文の多い料理店」「なめとこ山の熊」「オツベルと象」など、オノマトペを特徴的に使用している賢治童話の絵本が、数多く展示されています。
 なお、展示されている絵本は、館の売店で購入することもできます。